月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第19章 訪問者
いかにしても解り合えない父と子、互いにその背中に背負いきれないほどの孤独を負っている。香花の眼裏に、初めて家に父親が訊ねてきた日の出来事が浮かぶ。父をすげなく追い返した直後の光王の背中にも、やはり濃い孤独が滲んでいた。
「明日の朝、ここを発つつもりだ」
父親が感傷的な沈黙を破るかのように、唐突に言った。
「都にお戻りになるのですか?」
香花は愕いて光王の父を見上げる。
父親がゆっくりと頷いた。
「あれから何日か、ゆっくりと私なりに考えた。やはり、息子に許して貰おうというのは、私の一方的な甘えだったのだろう。そなたも聞いてはいるだろうが、二十八年前、私はあの子とその母を棄てた。たとえ、どのような言い訳をしようと、その事実は消えない。あの子がそのためにどれほどの苦労をしたか―、思うだけでも胸が潰れる。私は、あの子に父親だと名乗れる資格などない。二十八年前に自分からその資格を棄てたのだから」
「明日の朝、ここを発つつもりだ」
父親が感傷的な沈黙を破るかのように、唐突に言った。
「都にお戻りになるのですか?」
香花は愕いて光王の父を見上げる。
父親がゆっくりと頷いた。
「あれから何日か、ゆっくりと私なりに考えた。やはり、息子に許して貰おうというのは、私の一方的な甘えだったのだろう。そなたも聞いてはいるだろうが、二十八年前、私はあの子とその母を棄てた。たとえ、どのような言い訳をしようと、その事実は消えない。あの子がそのためにどれほどの苦労をしたか―、思うだけでも胸が潰れる。私は、あの子に父親だと名乗れる資格などない。二十八年前に自分からその資格を棄てたのだから」