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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第20章 父と子

 光王の扱う品は庶民相手のものが中心だ。従って、値は格安なものが圧倒的に多いが、その割には品も良くて使いやすいと評判だ。
 光王は、ぎっしりと入った商売物の中から小さな鏡を持ち出して、香花の眼前でひらひらと振って見せた。
「どうだ、綺麗だろう? 今、都の若い娘たちの間で飛ぶように売れてるらしいぜ」
 それは、十日ほど前、香花がシニョン老人から貰ったあの鏡とほぼ同じものだ。デザインも向日葵の花を象っていて、下方に飾りが付いている。光王の持っているのは、蒼い蝶の飾りがついていた。
 まさかシニョンから既に似たようなものを貰っている―とは言えなくて、香花は首を振った。
「大切な商売物でしょ」
「おい、だったら、どうすれば、機嫌を直してくれるんだよ?」
 あんまり苛めては可哀想ね、光王も流石にこれで懲りただろうしと、香花の心の中でもう一人の自分の声が呟く。

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