月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第20章 父と子
言葉を失った香花に、光王の懐かしげな声が聞こえてくる。
「俺のお袋(オモニ)がよく歌っていたな」
ふいに現れた〝お袋〟という言葉に、香花は胸をつかれた。
光王は香花の心中に気を払う様子もなく、淡々と続ける。
「不思議だろう? 今ではお袋の顔も朧になってしまったのに、面妖なことに、お袋が子守歌代わりに歌ってくれた歌だけは憶えている」
光王が眼を閉じる。顎に人さし指を当て、思案に沈んでいるようだ。何かをしきりに思い出そうとしているかのような表情だった。
「蒼い空の天の川 白い丸木舟には桂の木一本 うさぎ一匹 帆柱も立てず 棹もなく よくぞ進むな 西の国へ」
よく響く男らしい声が響き渡る。
香花はしばらく、その深い歌声に聴き惚れていた。
「俺のお袋(オモニ)がよく歌っていたな」
ふいに現れた〝お袋〟という言葉に、香花は胸をつかれた。
光王は香花の心中に気を払う様子もなく、淡々と続ける。
「不思議だろう? 今ではお袋の顔も朧になってしまったのに、面妖なことに、お袋が子守歌代わりに歌ってくれた歌だけは憶えている」
光王が眼を閉じる。顎に人さし指を当て、思案に沈んでいるようだ。何かをしきりに思い出そうとしているかのような表情だった。
「蒼い空の天の川 白い丸木舟には桂の木一本 うさぎ一匹 帆柱も立てず 棹もなく よくぞ進むな 西の国へ」
よく響く男らしい声が響き渡る。
香花はしばらく、その深い歌声に聴き惚れていた。