月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第20章 父と子
夜、添い寝をしてとせがむ幼い我が子を宥めるために、光王の母が即興で作ったという話。恐らくは〝半月〟の歌を基に咄嗟に思いついた作り話だったのだろう。その話を幼い光王に語り聞かせながら、光王の母もまた涙していたという。
微笑ましいというにはどこか悲愴さの漂う、あまりにも哀しい母と子の姿であった。そして、昼間のひとときの微睡みの合間に聞いた母の声が忘れられないという光王の心も察するだけで、あまりに切ない。
「もう一つ忘れられない光景がある」
光王が思い出したようにポツリと洩らした。香花がハッとして光王を見ると、彼は薄く微笑った。
だが、笑っているはずの顔が、何故かその時、香花には歪んで―泣いているようにしか見えなかった。
「俺はそんな具合で、夜はいつも一人ぼっちだった。勤めを終えたお袋が部屋に戻ってくるのは、明け方が殆どだったな。俺はお袋が帰ってきても、いつも寝たふりをして背中を向けてたよ」
微笑ましいというにはどこか悲愴さの漂う、あまりにも哀しい母と子の姿であった。そして、昼間のひとときの微睡みの合間に聞いた母の声が忘れられないという光王の心も察するだけで、あまりに切ない。
「もう一つ忘れられない光景がある」
光王が思い出したようにポツリと洩らした。香花がハッとして光王を見ると、彼は薄く微笑った。
だが、笑っているはずの顔が、何故かその時、香花には歪んで―泣いているようにしか見えなかった。
「俺はそんな具合で、夜はいつも一人ぼっちだった。勤めを終えたお袋が部屋に戻ってくるのは、明け方が殆どだったな。俺はお袋が帰ってきても、いつも寝たふりをして背中を向けてたよ」