
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第3章 陰謀
平徳の娘が穏堅に嫁していることから、この二人は舅と聟の関係になる。また、近々、完宗の側室として新たに穏堅の娘が選ばれるという噂もあった。もしそれが実現すれば、完宗と穏堅は舅と娘聟という関係となり、更に強固な絆で結ばれることになるのは明白だ。
今し方の会話の中で〝奸臣〟という言葉が聞こえたが、領議政も兵曹判書のいずれもが奸臣とは程遠い、むしろ忠臣といえることは、この国の民ならば誰でも知っている。国の要(かなめ)であるこの二人の大臣たちはまだ若い国王を陰陽向なく支え、王もまた二人に全幅の信頼を寄せている。先王はかつて〝朝鮮を闇で覆い尽くす闇の王〟とすら謳われたが、新しい王の治世になって、長らく闇に閉ざされていたこの国は漸く光を取り戻しつつあった。
王のすげ替えというならば、その英明な王を退け、また新たに王を立てる―ということになる。
何故、わざわざ、そのようなことをする必要があるというのだろう、聖君と民から慕われる青年王を何故―。
香花の疑問は膨らんでゆく。
「大監、やはり、気はお変わりになりませんか?」
明善の静かな問いかけに、客はいっそう苛立ちを露わにして噛みつくように言った。
「何を今更なことを。殿下を誅し奉り、義徳(ウィドク)君(グン)を新王に立てるという話は、もう我々の間ではとうに決まったことではないか!」
このひと言で、香花はすべてを悟る。
義徳君は完宗の同母弟であり、現在、十七歳。力のある姻戚を持たぬ完宗と異なり、数年前に左議政陳相成(チヤイジヨンソンサンソン)の孫を妻に迎えている。
ならば、今、明善と密談しているのは、他ならぬ陳相成に相違ない。
今し方の会話の中で〝奸臣〟という言葉が聞こえたが、領議政も兵曹判書のいずれもが奸臣とは程遠い、むしろ忠臣といえることは、この国の民ならば誰でも知っている。国の要(かなめ)であるこの二人の大臣たちはまだ若い国王を陰陽向なく支え、王もまた二人に全幅の信頼を寄せている。先王はかつて〝朝鮮を闇で覆い尽くす闇の王〟とすら謳われたが、新しい王の治世になって、長らく闇に閉ざされていたこの国は漸く光を取り戻しつつあった。
王のすげ替えというならば、その英明な王を退け、また新たに王を立てる―ということになる。
何故、わざわざ、そのようなことをする必要があるというのだろう、聖君と民から慕われる青年王を何故―。
香花の疑問は膨らんでゆく。
「大監、やはり、気はお変わりになりませんか?」
明善の静かな問いかけに、客はいっそう苛立ちを露わにして噛みつくように言った。
「何を今更なことを。殿下を誅し奉り、義徳(ウィドク)君(グン)を新王に立てるという話は、もう我々の間ではとうに決まったことではないか!」
このひと言で、香花はすべてを悟る。
義徳君は完宗の同母弟であり、現在、十七歳。力のある姻戚を持たぬ完宗と異なり、数年前に左議政陳相成(チヤイジヨンソンサンソン)の孫を妻に迎えている。
ならば、今、明善と密談しているのは、他ならぬ陳相成に相違ない。
