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　突如として立ち上がった香花を、光王が怪訝な表情で見つめている。
　香花は光王の視線には頓着せず、外に飛び出した。
「待って、待って下さい」
　遠ざかってゆく背中に向かって、あらん限りの声で叫ぶ。
　お願い、どうか、私の声があの方に届きますように。
　光王とあの方の切れかかった縁の糸が切れることなく、再びしっかりと結び直されますように。
　心の底から祈りながら、幾度も声が嗄れるまで呼び続けた。
　もし、光王の父が家の前まで来ていたのだとしたら、先刻のやりとりはすべて聞いてしまったに違いない。彼の二十八年前の罪はけして許されるものではない。が、幾ら光王の母を棄てたとはいえ、実の息子からああまで手酷く罵倒され、あまつさえ、深い憎しみを抱いていると知れば、やり切れない想いだったろう。