月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第20章 父と子
彼がとうとう声をかけられず、そのまま引き返してしまったのだとしても、あながち責めることはできなかった。
「旦那さま、どうか、お待ち下さい」
走りながら追いかけてきた香花の数歩手前で、男が立ち止まった。首だけねじ曲げて振り向く光王の父に、香花は頭を下げた。
「お願いです、光王ともう一度、話し合って下さいませんか」
父親は穏和な瞳を笑みの形に細め、優雅に歩み寄ってくる。その気品ある物腰は、やはり都の両班のものだ。そして、少し切れ上がった涼しげな眼許も、形の良い鼻梁も哀しいほど息子に似ている。
「そなたの心遣いは嬉しいが、あの子は私と話し合うことを望んではいない。ここは逢わずに帰った方が、互いのためだろう」
やはり、父親は扉の向こうですべてを聞いていたのだ。
「都に帰る前に、どうしてもあの子の顔が見たくて、未練がましく来てしまった」
穏やかな瞳に束の間、ひどく淋しげな影がよぎる。その瞳の色に、香花は切なくなる。
「旦那さま、どうか、お待ち下さい」
走りながら追いかけてきた香花の数歩手前で、男が立ち止まった。首だけねじ曲げて振り向く光王の父に、香花は頭を下げた。
「お願いです、光王ともう一度、話し合って下さいませんか」
父親は穏和な瞳を笑みの形に細め、優雅に歩み寄ってくる。その気品ある物腰は、やはり都の両班のものだ。そして、少し切れ上がった涼しげな眼許も、形の良い鼻梁も哀しいほど息子に似ている。
「そなたの心遣いは嬉しいが、あの子は私と話し合うことを望んではいない。ここは逢わずに帰った方が、互いのためだろう」
やはり、父親は扉の向こうですべてを聞いていたのだ。
「都に帰る前に、どうしてもあの子の顔が見たくて、未練がましく来てしまった」
穏やかな瞳に束の間、ひどく淋しげな影がよぎる。その瞳の色に、香花は切なくなる。