テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第21章 月下にひらく花

 決断力のある男がここまではっきり言うからには、既に都行きは決まっているのだ。それならば、香花には何も言うべきことはない。
 光王の将来を思えば、田舎の地方で一介の行商人として終わらせるのは忍びない。彼ほどの男なら、両班として生きていっても、必ずや頭角を表しエリート官吏にもなれるはずだ。彼にとっては、むしろ、今回の予期せぬ運命の展開は飛躍のまたとない好機となるだろう。
「よく決意したわね」
 香花としては心からの言葉であったけれど、光王は少し自嘲めいた笑みで応えた。
「あれほど嫌い抜いていた両班の連中の仲間になるなんざ、本音を言えば気が進まねえが、逆に考えれば、その立場になってこそできることもあるんじゃないかと思ってさ。香花、やるからには、俺は中途半端なことはしないつもりだ。いずれは国を動かす承相になって、この国のあり方を根本から変えて―いや、両班なんて威張り腐った特権階級そのものをこの世からなくしてやる」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ