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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第3章 陰謀

「まだ、子どもにございます」
 明善のとなりしにも、相成は、震える香花をニヤつきながらも射竦めるように見下ろしている。
「いやいや、儂(わし)はこのような無垢な少女の方が好みなのだ。そなた、歳は幾つだ?」
 問われても、応えることすらできない。
「お応えしなさい」
 明善にいつになく強い口調で命じられ。、香花は涙を堪えて言った。
「―十四にございます」
 消え入りそうな声に、相成はますます相好を崩す。
「いやはや、何とも可愛い声だ。まるで鈴を振るような愛らしい声ではないか。崔承旨よ、この年でこれほどなのだ、あと数年経てば、いかほど美しく花開くか。このようなまだ開かぬ蕾をたっぷりと可愛がり、女として開花させるのもまた男としては一興というものだぞ」
 相成は思いがけない拾い物にほくそ笑み、先ほどまでの不機嫌さもどこへやらである。
 しかし、相成に望まれている香花自身はそれどころではない。生きている心地もしないとは、まさにこのことだ。
 まるで舌なめずりしそうな相成の貌は脂で光り、いかにも女好きそうだ。こんな男の許に自分はやられてしまうのだろうか。香花は不安を宿したまなざしを揺らし、縋るように明善を見上げた。

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