
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第3章 陰謀
その時、ふっと明善が笑った。
「大監、真にお恥ずかしい限りでございますが、実は、この娘、家庭教師などではありません。年甲斐もなく若い側妾を屋敷に囲ったもので、つい恥ずかし紛れに他人には子どもの家庭教師だと言い逃れております。私の手の付いた女を大監に差し上げるのはいかにも無礼というもの。もし、このような若い初(うぶ)な娘がお望みとあらば、近い中に適当な者を見繕ってお屋敷の方に届けましょう。どうか、この場はそれでお許しを」
「ホホウ、堅物で知られるそなたがこのような可憐な乙女をのう」
相成は未練たっぷりといった眼で香花を見ながらも、納得したように頷く。
「ま、そなたもやはり男であったということだな。だが、崔承旨よ、儂は別にそなたが抱いた女だからとて、そのようなこと気にはせぬぞ? むしろ、他の男を想う女を抱き、啼かせるのもまた、たまらぬ悦楽。それを申せば、五年前、そなたの妻を―」
「大監!」
明善が彼らしくない大声で制した。
「その話は済んだことにございます」
「う、うむ。そうであったな」
相成はコホンと咳払いをすると、香花に嫌らしげな一瞥をくれ、頷いた。
「香花、ここを片付けて、代わりを持ってくるように。ああ、そうだな、今度は茶菓ではなく、酒肴を用意しなさい」
明善の指図に、香花は慌てて頷いた。
「ホウ、そなたにしては気のきいたことを申すな。この者に酒の相手をさせるのか」
またしても諦めの悪い相成が身を乗り出してくるのに、明善は香花を庇うようにさりげなく相成の前に立つ。
「夜も遅い。そなたはもう先に寝みなさい。酒肴はウィギルに運ばせれば良い」
香花は、廊下に散らばった器の破片を集めながら、〝畏まりました〟と応えた。
「大監、真にお恥ずかしい限りでございますが、実は、この娘、家庭教師などではありません。年甲斐もなく若い側妾を屋敷に囲ったもので、つい恥ずかし紛れに他人には子どもの家庭教師だと言い逃れております。私の手の付いた女を大監に差し上げるのはいかにも無礼というもの。もし、このような若い初(うぶ)な娘がお望みとあらば、近い中に適当な者を見繕ってお屋敷の方に届けましょう。どうか、この場はそれでお許しを」
「ホホウ、堅物で知られるそなたがこのような可憐な乙女をのう」
相成は未練たっぷりといった眼で香花を見ながらも、納得したように頷く。
「ま、そなたもやはり男であったということだな。だが、崔承旨よ、儂は別にそなたが抱いた女だからとて、そのようなこと気にはせぬぞ? むしろ、他の男を想う女を抱き、啼かせるのもまた、たまらぬ悦楽。それを申せば、五年前、そなたの妻を―」
「大監!」
明善が彼らしくない大声で制した。
「その話は済んだことにございます」
「う、うむ。そうであったな」
相成はコホンと咳払いをすると、香花に嫌らしげな一瞥をくれ、頷いた。
「香花、ここを片付けて、代わりを持ってくるように。ああ、そうだな、今度は茶菓ではなく、酒肴を用意しなさい」
明善の指図に、香花は慌てて頷いた。
「ホウ、そなたにしては気のきいたことを申すな。この者に酒の相手をさせるのか」
またしても諦めの悪い相成が身を乗り出してくるのに、明善は香花を庇うようにさりげなく相成の前に立つ。
「夜も遅い。そなたはもう先に寝みなさい。酒肴はウィギルに運ばせれば良い」
香花は、廊下に散らばった器の破片を集めながら、〝畏まりました〟と応えた。
