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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第21章 月下にひらく花

 かつて崔明善が説いていたように、香花はこの世が身分差のない社会になれば良いとひそかに願っている。自分には、たいそうなことはできないが、少しでも役に立ちたいと考えていた。
 学問をし、知識を得ることは〝戦う力〟となる。明善はそう言っていた。賤民や奴婢と呼ばれる下層階級の人々の弱味は文字を知らないことだ。彼等は全く学問をする自由も権利もないのだから、無学なのは当たり前だ。
 何も知らないことは、彼等の立場を余計に覚束ないものにしている。文字を習えば、書物も読めるし、そこから様々な知識を吸収できる。自らの中に蓄積し培ったものを礎に、自分で考え行動できる。明善が知識を得ることは力だと言ったのは、つまりはそういうことだったのだ。
 村の子どもたちを教え導くことは、彼等の置かれた立場を向上させるのに役立つだろう。すぐに効果を期待できないとしても、香花が教えた子どもたちが長じ、またその次の世代の子どもたちに教えてゆけば、長い年月の中には〝学ぶ〟という行為が村人たちの中に浸透し、文字が彼等のものとなってゆく。

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