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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第21章 月下にひらく花

 文字を憶えた彼等は書物を読み、知るだろう。自分たちの置かれた立場がいかに不当なものであるか、一部の特権階級の者たちだけがいかに威張り散らし、彼等から不当に搾取しているか。 
 真実を知ることで、彼等は自分たちの立場を変えようとするだろう、そのためには社会から一切の身分差をなくさなければならないと考え、自ら立ち上がるだろう。
 そんな日が来るのは一体、いつなのだろう。長い長い気の遠くなるような先の話だ。
 それでも最初の一歩がなければ、次の二歩めもない。遅々とした歩みでも、とにかく前に進んでゆかなければならないのだ。種を播かなければ、芽も出ず、花も咲かないように。
 自分がその一歩を踏み出そう。種を播こう。
 香花は、ひそかに夢見ている。
 いつかは、香花の播いた種が花を咲かせ、豊かな実を実らせるだろう。香花の歩いた道が一本の長い長い道となり、後から歩いてくる人たちのための道標(みちしるべ)となるだろう。

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