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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第3章 陰謀

「さ、大監、中にお戻り下さい。とんだ興醒めになってしまいましたが、折角です、呑み直しましょう」
 明善は相成の大きな身体を中に押し込むようにし、更に自分も部屋に戻った。
 扉が閉まる寸前、明善のわざと高い声が響いてくる。
「香花、今宵もそなたの許で過ごすゆえ、湯浴みは済ませておくのだぞ」
 その科白が相成を納得させるものだと判っていても、何故か香花は涙が止まらなかった。
 大好きな男、心から尊敬し慕う明善。その明善から妾だと広言切って言われたことが、こんなにも哀しく辛い。
 私は一体、何を考えているの?
 明善さまに何を求め、期待しているというの?
 妻になりたいなどと大それたことを考えているわけでもない。しかも、明善は好色な相成の毒牙から香花を守るために、やむなく香花を側女だと言ったのだ。感謝こそすれ、恨めしく思うのは筋違いというものだろう。
 それでも、香花は哀しかった。
 明善は相成の機嫌を損なうことを承知で、相成から自分を庇ってくれたのだ。これ以上、何を望むというのか。

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