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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第21章 月下にひらく花

 ただの小間物売りであっても、両班になっても、生涯の伴侶には、香花しか考えられない―。これほど嬉しい言葉があったろうか。
 香花の眼に涙が溢れた。
「もしかして、お前が俺に嫁げば、実家が絶えてしまうからか? そういえば、お前の夢は実家の再興だったものな」
 香花は涙を堪え切れず、大粒の涙をポロポロと流した。
 逞しい腕に引き寄せられる。〝そうなのか〟と優しく顔を覗き込まれ、香花は小さな子が嫌々とするように首を振った。
「実家のことなら、心配は要らない。気の早い話のようだけど、俺とお前の間に子が生まれたら、その子に金家を継がせれば良い」
「違う―の」
 香花は小さくしゃくりあげながら、ようよう言った。
「私の実家は、あなたも知っているように零落し切っているでしょう。私と結婚したからといって、私の実家は何の後ろ盾にもなれない」
 それ以上は口にしなかったが、香花の想いはすぐに光王に伝わったようだった。

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