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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第21章 月下にひらく花

 しかし、香花では、光王にその後見たるべき外戚をつけてあげることはできない。むしろ、逼塞した家門の娘しか迎えられなかったと、光王の立場はますます苦しい微妙なものになるだろう。
「お前は本当に馬鹿だな」
 光王が香花のやわらかな頬を両手で挟んだ。人さし指で頬を流れ落ちる涙をぬぐう。
「人を身分や立場で差別する人間は、どこにでもいるものだ。両班は賤民を蔑むが、同じ両班同士でさえもが家門が上だ下だと互いに牽制し合う。そんな奴らの言うことを一つ一つ真に受けていたら、身が保たないだろ。大丈夫だよ。俺は打たれ馴れてるし、何度もこの世の地獄を見て、修羅場をかいくぐってきた男だ。少々のことじゃ、愕かねえよ」
 かつては天下の大盗賊といわれた男の科白だけに、妙に真実味のある科白である。
 不思議だ。光王の逞しい腕に抱かれ〝大丈夫だ〟と囁かれると、本当に大丈夫だと思えてくる。

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