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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第21章 月下にひらく花

 光王のまなざしが揺れ、束の間、遠くなる。
「お前には話すつもりはなかったが―、昔、本気になった女がいたんだ」
「その女がミリョンに似ていたのね?」
 畳みかけるように訊ねると、光王は最初、思案顔だったが、ほどなく曖昧に頷いた。
「ああ、確か、旅芸人の一座にいた女だな。座頭の娘だっていう」
 光王がミリョンを見たときの驚愕といったら、なかった。あの時、衝撃を受けたのはミリョンを見た光王自身よりも、愕きをあそこまで露わにした光王を見た香花の方だった。
 あの瞬間、香花は確信したのだ。
 光王は、いまだに昔、愛した女を想い続けている。
 そう考えてゆけば、香花を見て〝お前はあいつに似てるな〟と囁いたことも、出逢ってまもない頃、〝お前、俺が昔、惚れた女に似てるんだ〟―、そう彼女に告げたことにも、すべてが納得がゆく。

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