
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第3章 陰謀
固く閉じられた両開きの扉の向こうで、猜疑心に満ちた相成の声が聞こえる。
「大丈夫なのか? 先刻の話、よもや、あの女に聞かれはすまいな」
「田舎から出てきたばかりの小娘で気も利かぬのです。立ち聞きなどという芸当など到底、できますまい。ご心配なさいませぬように」
代わって、明善の落ち着き払った声。
「最近、迎えたばかりだと申しておったが、身許の方は確かなのであろうな? 領議政から送り込まれた密偵などという可能性は?」
相成は疑い深い性格なのか、まだ腑に落ちかねているようだ。
「その点は全く心配ございませぬ。私も当然、そのようなこともあろうかと娘を屋敷に入れる前には、十分身許を検めております」
明善は平然と応える。
「まっ、用心深いそなたのことゆえ、抜かりはないとは思うが。それにしても、惜しいものよ、あの娘」
自分がまたしても話題に上り、香花は再び身を強ばらせる。
「先刻も申し上げましたように、つまらぬ田舎娘にございます。最初は物珍しさもありましょうが、左相大監のお相手が務まるほどの者ではございませんでしょう」
「いやいや、あのような純真そうな小娘こそ、可愛がってやれば、誰もが心奪われるほどの色香溢れる妖艶な女に様変わりするものよ。崔承旨。そなたは若いゆえ、女の身体を開花させる醍醐味もまだ十分には知らぬであろうが」
相成はひとしきり陰にこもった、いかにも卑猥そうな笑い声を聞かせた。
「大丈夫なのか? 先刻の話、よもや、あの女に聞かれはすまいな」
「田舎から出てきたばかりの小娘で気も利かぬのです。立ち聞きなどという芸当など到底、できますまい。ご心配なさいませぬように」
代わって、明善の落ち着き払った声。
「最近、迎えたばかりだと申しておったが、身許の方は確かなのであろうな? 領議政から送り込まれた密偵などという可能性は?」
相成は疑い深い性格なのか、まだ腑に落ちかねているようだ。
「その点は全く心配ございませぬ。私も当然、そのようなこともあろうかと娘を屋敷に入れる前には、十分身許を検めております」
明善は平然と応える。
「まっ、用心深いそなたのことゆえ、抜かりはないとは思うが。それにしても、惜しいものよ、あの娘」
自分がまたしても話題に上り、香花は再び身を強ばらせる。
「先刻も申し上げましたように、つまらぬ田舎娘にございます。最初は物珍しさもありましょうが、左相大監のお相手が務まるほどの者ではございませんでしょう」
「いやいや、あのような純真そうな小娘こそ、可愛がってやれば、誰もが心奪われるほどの色香溢れる妖艶な女に様変わりするものよ。崔承旨。そなたは若いゆえ、女の身体を開花させる醍醐味もまだ十分には知らぬであろうが」
相成はひとしきり陰にこもった、いかにも卑猥そうな笑い声を聞かせた。
