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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第22章 第6話【漢陽(ハニャン)の春】・再会

 それでも、手紙の一通くらいは書いても良かったのに、香花はずっとなしのつぶてだった。
 というのも、彼女はかつて〝天下の大義賊〟と謳われ、都を賑わせた男―光王(カンワン)と行動を共にしていたからだ。今は光王への義禁府の追跡の手も緩んだものの、一時は彼は、お上から血眼になって追われる身であった。
 何しろ、光王は両班と呼ばれる特権階級の人々の屋敷に忍び込み、彼らがしこたま貯め込んだ財宝をことごとく盗み出した挙げ句、まんまと逃げおおせるのだ。光王が盗みに入るのはすべて不正を重ねたり、貧しい民から不当に搾取して財を成したあくどい輩ばかりであった。
 光王は〝光の王〟と呼ばれる盗賊集団を率いる長(おさ)でもあったが、盗み出した財宝はことごとく民衆にばらまき、自分たちの手許には活動資金にもならない程度のものしか残さなかった。そんな彼を、都の人々は〝光王こそがこの世を光で照らす真の王〟だと称え、神か仏のようにありがたがった。

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