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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第22章 第6話【漢陽(ハニャン)の春】・再会

 すると、それまで満面に笑みを湛えていた叔母の表情が微妙に翳った。
「実はね、あのときの子どもは儚くなってしまったのですよ。たいそうな難産で―医者は産婦の生命すら危ういと告げたほどだったのです。三日三晩苦しみ抜いて、漸く生まれたのだけれど、赤ン坊は既に亡くなっていました」
「そう、だったのですか」
 予期せぬなりゆきに、香花は言葉もなかった。あれほど孫の誕生を愉しみに待っていた叔母の心中、更には初めての子を喪った尚賢夫婦のことを思うと、かける言葉も浮かばない。
「無理が祟ったのでしょうかねえ。むろん、気落ちもあるでしょうが、ヘリョンはすっかり体調を崩してしまって。当人は何としても今一度懐妊して跡取りをと可哀想なくらい思いつめているのがかえって不憫なのです。尚賢も私も子は授かり物ゆえ、焦ることなく気長に待てば良いと言い聞かせてはいるのですがね」

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