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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第22章 第6話【漢陽(ハニャン)の春】・再会

 良人である光王に対しても同じことだった。光王は表面ではこの義母に礼を尽くして接しているものの、陰では〝糞婆ァ〟と呼んで毛嫌いしている。まあ、外見だけは立派な両班家の若さまになった彼ではあるが、中身は相も変わらず香花のよく知る光王だ。
 現在、光王は科挙に向けて、毎日、殆ど休む暇もなく勉強漬けである。これまで文字は何とか読めても書くことはできなかった彼にはなかなか苛酷な苦行のようではあるが、持ち前の明晰さと物憶えの良さで乾いた砂が水を吸うように吸収し、ふた月で難しい書物も何とか読みこなすようになった。その進歩は、真悦がわざわざ付けた家庭教師も舌を巻くほどである。
 それでも、二十八年間の空白はけして小さなものではない。香花は夜毎、机に向かう光王の傍らに座った。難しい語句があると、光王は香花に訊ね、香花は判り易いように丁寧にかみ砕いて応える。

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