テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第22章 第6話【漢陽(ハニャン)の春】・再会

 あまりな科白だった。見る人が見れば、香花の気品備わった挙措は明らかに両班家の令嬢であるとすぐに判るはずだ。なのに、この義母は最初から見る気がないのか、それとも見る眼そのものがないのか、香花を、妓生扱いし、事ある毎に蔑みの対象にした。
―そなたも妻たる自覚があるのならば、妓生のように男の気を引くことばかり考えず―。
 その一部分だけが香花の耳でわんわんと鳴り響く。
「いっそのこと、光王どのが見事、科挙に合格を果たすその日まで、寝室を別にするのも良いかもしれぬな」
 皮肉げな物言いには憎悪さえ込められている。思わず涙が込み上げてきた香花は、慌ててうつむいた。
「義母上、この者は氏素性の知れぬ賤しき者、中にはこの者が真に妓生であったと申す人もおります。妓生にとっては殿方のお気を引くのが仕事、それを咎め立てなさっては、それこそ酷というものではございませんか?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ