
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第3章 陰謀
香花は刺繍から眼を逸らし、ひと息に言った。言いたくはない、でも、どうしても言わねばならないことだった。
「旦那さま、私は今日、聞いてしまったのです」
「―その話は止めよう」
明善の声が警戒するように幾分固くなる。
「旦那さま!」
香花は縋るような眼で明善を見る。
「ひとたび知れば、そなた自身の身が危うくなる。それほどに、これは怖ろしい謀なのだ。今夜、耳にした話はきれいに忘れるのだ。それが、そなたのためだ」
涙が次々と溢れ出てくる。
「そんなこと、できません」
香花は泣きながら首を振る。
「―金先生」
明善が愕いたように眼を見開いた。
「できるはずがないじゃないですか。好きな男(ひと)がみすみす死ぬのを黙って見てるなんて、私にはできません!」
「―そなたは私を好いていてくれたのか」
明善は呟き、優しげな瞳で香花を見つめる。
「ここへおいで」
明善が座ったまま、両手をひろげる。最初は何のことか判らなかったものの、やがてその意図を理解した香花は真っ赤になって慌てて首を振った。
そんな香花を眼を細めて見つめ、明善はつと手を伸ばす。香花の細い腰に手を回すと、そのまま自分の膝に抱き上げた。
香花は丁度、明善に背を向ける格好で膝に乗っている。明善の逞しい胸板が夜着越しとはいえ直に背に触れ、もう心臓が爆発寸前になる。触れ合った部分がかすかに熱を帯び、身体の芯がじんと痺れてくるようだ。
「―昔の話だが、聞いてくれるか」
「旦那さま、私は今日、聞いてしまったのです」
「―その話は止めよう」
明善の声が警戒するように幾分固くなる。
「旦那さま!」
香花は縋るような眼で明善を見る。
「ひとたび知れば、そなた自身の身が危うくなる。それほどに、これは怖ろしい謀なのだ。今夜、耳にした話はきれいに忘れるのだ。それが、そなたのためだ」
涙が次々と溢れ出てくる。
「そんなこと、できません」
香花は泣きながら首を振る。
「―金先生」
明善が愕いたように眼を見開いた。
「できるはずがないじゃないですか。好きな男(ひと)がみすみす死ぬのを黙って見てるなんて、私にはできません!」
「―そなたは私を好いていてくれたのか」
明善は呟き、優しげな瞳で香花を見つめる。
「ここへおいで」
明善が座ったまま、両手をひろげる。最初は何のことか判らなかったものの、やがてその意図を理解した香花は真っ赤になって慌てて首を振った。
そんな香花を眼を細めて見つめ、明善はつと手を伸ばす。香花の細い腰に手を回すと、そのまま自分の膝に抱き上げた。
香花は丁度、明善に背を向ける格好で膝に乗っている。明善の逞しい胸板が夜着越しとはいえ直に背に触れ、もう心臓が爆発寸前になる。触れ合った部分がかすかに熱を帯び、身体の芯がじんと痺れてくるようだ。
「―昔の話だが、聞いてくれるか」
