月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第23章 揺れる心
揺れる心
同じその時刻、光王は珍しく外出先から戻ってきたばかりだった。どうも屋敷内の雰囲気が違う。微妙な空気を嗅ぎ分けることができるのは、やはり〝盗賊光王〟であった頃の名残というか特性だろう。
その日、家庭教師を務める老人が軽い風邪で寝込んで、急に来られなくなった。その連絡を受け、光王は師の宅まで見舞いに出向いてきたのである。師匠は齢六十に手が届くとは思えないほど矍鑠(かくしやく)としているが、やはり、歳は歳だ。家人が知らせてよこしたとおり、軽い風邪だというのは真であったけれど、出迎えた彼はしきりに咳ばかりしていた。
幼い砌から喘息を患っている彼は、風邪を引き込むと、発作に苦しめられて困ると、半ば苦笑混じりに嘆息していた。長話をして老人を疲れさせてはならないと、光王は早々に師匠の屋敷を辞去した。
同じその時刻、光王は珍しく外出先から戻ってきたばかりだった。どうも屋敷内の雰囲気が違う。微妙な空気を嗅ぎ分けることができるのは、やはり〝盗賊光王〟であった頃の名残というか特性だろう。
その日、家庭教師を務める老人が軽い風邪で寝込んで、急に来られなくなった。その連絡を受け、光王は師の宅まで見舞いに出向いてきたのである。師匠は齢六十に手が届くとは思えないほど矍鑠(かくしやく)としているが、やはり、歳は歳だ。家人が知らせてよこしたとおり、軽い風邪だというのは真であったけれど、出迎えた彼はしきりに咳ばかりしていた。
幼い砌から喘息を患っている彼は、風邪を引き込むと、発作に苦しめられて困ると、半ば苦笑混じりに嘆息していた。長話をして老人を疲れさせてはならないと、光王は早々に師匠の屋敷を辞去した。