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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第23章 揺れる心

 光王は庭先で駆ってきた馬を降り、下男に預けた。そのまま庭を突っ切って母家の手前まで来た時、見憶えのある若い女中二人がひそひそと囁き交わしているのが眼に入った。
 務めて声を抑えているようではあるが、いかにせん、二人共に興奮しているようで、普段から紅い頬を更に上気させて話に夢中になっている。
 光王がコホンと軽く咳払いをすると、二人は眼前に立つ彼の存在に初めて気付いたように顔を見合わせた。その面には明らかに狼狽が浮かんでいる。
「どうかしたのか?」
 声をかけると、背の低い方の娘が慌てて頭を下げた。
「いいえ、何でもございません」
 この二人の若い女中だけでなく、成家に古くから仕える老女中までもが光王を前にすると、年甲斐もなくうっとりと見惚れるのはいつものことだ。何も自惚れているわけではなく、彼はどこにいても人眼を引く―殊に女性の視線を集めるのは馴れていた。

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