
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第3章 陰謀
良人からすべてを聞いた奥方は自ら大臣の屋敷へと出向いた。奥方は三日三晩、屋敷の奥深くの一室に閉じ込められた。あらゆる陵辱がそこで行われた。
四日めの朝、奥方は輿で家まで送り届けられてきたが、その日を境にまるで魂を手放したかのように虚ろになった。良人や幼い子どもたちが話しかけても振り向きもせず、ただ空ばかりを見上げていた。彼女はもう二度と、良人と褥を共にしようとはせず、やむなく良人は奥方と自分の寝室を別にした。
そして、七日めの朝、妻がなかなか起きてこないのを案じた良人が部屋を覗いた時、奥方は既に部屋で首を括って死んでいた―。
奥方の死は病死と届け出られ、二人の幼い子どもたちにもそのように伝えられた。
すべてを語り終え、明善は吐息をついた。
「男の眼には、今でもあの朝の光景が生々しく灼きついて、離れることはない。まるで今にも秋の風に吹き飛ばされようとする一枚の木の葉のようにゆらゆらと揺れていた梁からぶら下がる妻のか細い身体。既に生命が燃え尽きたことを示す冷え切った身体。すべて―、すべては男の招いたことだ。妻の身体を欲しいままに犯したのは憎い大臣だが、結局、我が身の保身のために妻を差し出したのは、男だった」
だから、男は、その日から、人を愛するのを止めたのだよ。
明善は感情のこもらない、乾いた声音で言った。
「金先生、私はもう人を愛する資格など、とうに失っている」
明善はそう言って、また香花の髪を撫でる。
「あのときからであろうな。もう、何もかもどうでも良いと投げやりになってしまったのは。私が大監の謀に乗ったのは、そのときだ」
四日めの朝、奥方は輿で家まで送り届けられてきたが、その日を境にまるで魂を手放したかのように虚ろになった。良人や幼い子どもたちが話しかけても振り向きもせず、ただ空ばかりを見上げていた。彼女はもう二度と、良人と褥を共にしようとはせず、やむなく良人は奥方と自分の寝室を別にした。
そして、七日めの朝、妻がなかなか起きてこないのを案じた良人が部屋を覗いた時、奥方は既に部屋で首を括って死んでいた―。
奥方の死は病死と届け出られ、二人の幼い子どもたちにもそのように伝えられた。
すべてを語り終え、明善は吐息をついた。
「男の眼には、今でもあの朝の光景が生々しく灼きついて、離れることはない。まるで今にも秋の風に吹き飛ばされようとする一枚の木の葉のようにゆらゆらと揺れていた梁からぶら下がる妻のか細い身体。既に生命が燃え尽きたことを示す冷え切った身体。すべて―、すべては男の招いたことだ。妻の身体を欲しいままに犯したのは憎い大臣だが、結局、我が身の保身のために妻を差し出したのは、男だった」
だから、男は、その日から、人を愛するのを止めたのだよ。
明善は感情のこもらない、乾いた声音で言った。
「金先生、私はもう人を愛する資格など、とうに失っている」
明善はそう言って、また香花の髪を撫でる。
「あのときからであろうな。もう、何もかもどうでも良いと投げやりになってしまったのは。私が大監の謀に乗ったのは、そのときだ」
