
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第3章 陰謀
明善は最早、復讐のためには手段を選ばない。だとすれば、相成を油断させるためには、あの殺生簿の中に記されていた者の一人や二人を殺すことは厭わないかもしれない。
だが、明善の当初の計画では、あくまでも無関係な人間を殺すような状況になる前に、決着をつけようとするはずだ。
明善は多分、自爆するつもりなのだ。ただ相成の生命を奪っただけでは飽きたらず、その家門まで彼がこれまでの人生で築き上げてきたすべてのものを一緒にぶち壊すつもりだ。確かに権力欲の虜となり、怖ろしい陰謀を企むほどの男には、これほどふさわしい罰はあるまい。
相成が己れのなした罪業の報いを受け、すべてを失うのは自業自得というものだ。しかし、そのために、何故、被害者である明善までもが巻き添えにならなければならないのか。
「旦那さまはもしや、左相大監と心中するおつもりではございませんか?」
香花が懸命な面持ちで言うと、明善は穏やかな笑みを浮かべ、ゆるりと首を振る。
「良いのだ、私は妻をあの男に寝取られた甲斐性なしの男だ」
「そんな風に自分を卑下なさるのは止めて下さい」
香花は、既に何もかも諦め切ったかのような明善の瞳が哀しかった。明善の瞳には、様々な葛藤や悲痛な哀しみを乗り越えようとしてあがき、それでもなお乗り越えられなかった者特有の諦観が滲んでいた。
彼は一体、どこで自らの気持ちに折り合いをつけたのだろう。もしそれが自らの生命を犠牲にした上での敵討ちだというのなら、あまりにも哀しすぎる。
「金先生、そんな意気地なしの男にでも一分の誇りは残っている。その誇りを支えにすれば、この世でおよそなし得ないことなどない」
だが、明善の当初の計画では、あくまでも無関係な人間を殺すような状況になる前に、決着をつけようとするはずだ。
明善は多分、自爆するつもりなのだ。ただ相成の生命を奪っただけでは飽きたらず、その家門まで彼がこれまでの人生で築き上げてきたすべてのものを一緒にぶち壊すつもりだ。確かに権力欲の虜となり、怖ろしい陰謀を企むほどの男には、これほどふさわしい罰はあるまい。
相成が己れのなした罪業の報いを受け、すべてを失うのは自業自得というものだ。しかし、そのために、何故、被害者である明善までもが巻き添えにならなければならないのか。
「旦那さまはもしや、左相大監と心中するおつもりではございませんか?」
香花が懸命な面持ちで言うと、明善は穏やかな笑みを浮かべ、ゆるりと首を振る。
「良いのだ、私は妻をあの男に寝取られた甲斐性なしの男だ」
「そんな風に自分を卑下なさるのは止めて下さい」
香花は、既に何もかも諦め切ったかのような明善の瞳が哀しかった。明善の瞳には、様々な葛藤や悲痛な哀しみを乗り越えようとしてあがき、それでもなお乗り越えられなかった者特有の諦観が滲んでいた。
彼は一体、どこで自らの気持ちに折り合いをつけたのだろう。もしそれが自らの生命を犠牲にした上での敵討ちだというのなら、あまりにも哀しすぎる。
「金先生、そんな意気地なしの男にでも一分の誇りは残っている。その誇りを支えにすれば、この世でおよそなし得ないことなどない」
