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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第24章 交錯する想い

 落ち着いて庭を眺めるのなんて、何ヶ月ぶりのことだろうか。
 だが、と、香花は思い直す。心や生活に余裕がないからこそ、もっと周囲に眼を向けて美しい花や自然の風景、生きものたちの営みを瞳に映すべきだと。
 ゆとりを失った時、心は死んでしまう。逆にいえば、他のものに眼を向ける余裕があるときは、まだ極限状態まで追いつめられているわけではない。
 香花はしばし冬珊瑚の鮮やかな実を見つめた。
 気を取り直して再び棍棒を持つ手に力を込めたその時、背後で若い女の声が響いた。
「お前も相変わらず、しぶといわね」
「―?」
 香花が突然の事に愕いて振り向くと、そこには彩景の姿があった。両手を組んで仁王立ちになり、いかにもこちらを見下すといった態度で香花を睨(ね)めつけている。

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