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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第24章 交錯する想い

 知勇の早すぎる死を誰もが悼み、惜しんだ。香花もまたしばらくは茫然自失状態だったが、それでも、あのときの自分の選択は間違っていたとは思わない。知勇が存命していれば、彼を慕う娘は次々に現れただろう。
 知勇は父の暴挙を息子として止められない自分を恥じ、深く懊悩していた。そんな彼の姿を見る度、香花まで辛くなった。だが、一時の同情を恋情と勘違いして、偽物の想いを返すことは真摯に香花を想ってくれる彼にとっても失礼だし、きっと不幸な結末を招いたに違いない。
 ひとめ逢ったその瞬間から、恋に落ちてしまうことは、ままある。もしかしたら、彩景は心底から光王を慕っているのかもしれないけれど、何故か、先刻のあの呟きは、光王への恋心というよりは和真へ向けられた言葉であり、亡き人への想いのように思えてならなかった。

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