月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第24章 交錯する想い
以来、満月が輝く夜には、夜な夜な、その井戸から女のすすり泣きが聞こえてくる。泣き声が聞こえてくるときは、どういうわけか、蒼い蝶がひらひらと井戸の周囲を飛んでいるとか。
その話はどこの屋敷にでもありがちな怪談ではあったが、若い女中たちは声を潜めては興奮気味に話し合っていた。
―実は、実際に蒼い蝶を見た人がいるらしいわよ。
―えっ、誰、誰なの。
―ほら、去年までいた人、梅(メ)香(ヒヤン)とかいったでしょ。あの娘(こ)が見たらしいわよ。
―ああ、旦那さまの特別のお計らいで、婚礼を挙げたばかりの下男と身分を引き上げて貰って出ていった人ね。何でも、旦那さまおん自ら二人の前で奴婢証文を焼いておしまいになったそうよ。私はあまり話したことはないけれど、運の良い娘よね。
その話はどこの屋敷にでもありがちな怪談ではあったが、若い女中たちは声を潜めては興奮気味に話し合っていた。
―実は、実際に蒼い蝶を見た人がいるらしいわよ。
―えっ、誰、誰なの。
―ほら、去年までいた人、梅(メ)香(ヒヤン)とかいったでしょ。あの娘(こ)が見たらしいわよ。
―ああ、旦那さまの特別のお計らいで、婚礼を挙げたばかりの下男と身分を引き上げて貰って出ていった人ね。何でも、旦那さまおん自ら二人の前で奴婢証文を焼いておしまいになったそうよ。私はあまり話したことはないけれど、運の良い娘よね。