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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第24章 交錯する想い

―あら、うちの旦那さまは情け深い方だから、私たちだって、いつかは奴婢から身分を引き上げて貰えるかもしれないわよ。
―それはともかく、その梅香が夜中に、結婚した男と待ち合わせしてたんですって。まだ恋人時代の話よ。でも、生憎、その夜は急に旦那さまがお出かけになって、下男もお伴として付いていかなければならなくなったらしいの。で、梅香はずっと待ちぼうけを井戸端で食らっていたら―。
―出たのね?
―そうらしいわ。すすり泣きが井戸の外から聞こえてきて、見たこともないような綺麗な蒼い蝶がひらひらと飛んできたんですって。そうしたら、ボーッと蒼白い人影が井戸の真上に浮かび上がってきて―。
―後から思い出したら、その日が満月だったって。
 キャーとかしましい悲鳴を上げている彼女たちの話を傍で聞きながら、香花は繕い物をする手を忙しく動かしていた。

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