テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第24章 交錯する想い

 真悦が自らの屋敷の奴婢の奴婢証文を焼き、自由にしてやった―というのは愕きではあった。が、特権階級の中でもとりわけ上級クラスの真悦であっても、そのようなことをするのは、やはり光王の父ならではなのかもしれない。
 光王もまた身分差のない社会を理想としている。真悦が身分制度に否定的な考えを抱いているのかどうかまでは知らないけれど、真悦の人間性の底に流れるものを光王は受け継いだのだろう。
 そのことはさておき、その、いかにもありふれた怪談話を何故、今になって思い出すのか。香花は、我ながら面妖に思った。
 その時、ふいに蒼い陰が眼の前をよぎった―ような気がした。
 でも、おかしいわ。蒼い蝶が飛ぶのも泣き声が聞こえてくるのも満月の夜のはずなのに。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ