月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第24章 交錯する想い
「何をしているのだね」
聞き憶えのある深い声に、香花はいきなり現実に返った。
改めて振り向くと、良人の父真悦が強ばった表情で立っていた。
「あ、―私」
辛うじて声を出すと、真悦は香花の反応を窺うように、用心深く瞳を見つめてくる。
「自分がここで何をしようしていたか、そなたは全く憶えていないのか?」
香花は無言で頷いた。
真悦は深い吐息を洩らし、香花の手を引くと、井戸端に座らせた。
「そなたはたった今、自ら井戸に飛び込もうとしていたのだぞ?」
「えっ、私が? まさか―」
香花は言いかけ、言葉を失った。
舅に呼び止められるまで、自分は何をしていた? 確か眼の前を蒼い蝶が飛んできて、追いかけているうちに井戸の中を覗き込んだ。
聞き憶えのある深い声に、香花はいきなり現実に返った。
改めて振り向くと、良人の父真悦が強ばった表情で立っていた。
「あ、―私」
辛うじて声を出すと、真悦は香花の反応を窺うように、用心深く瞳を見つめてくる。
「自分がここで何をしようしていたか、そなたは全く憶えていないのか?」
香花は無言で頷いた。
真悦は深い吐息を洩らし、香花の手を引くと、井戸端に座らせた。
「そなたはたった今、自ら井戸に飛び込もうとしていたのだぞ?」
「えっ、私が? まさか―」
香花は言いかけ、言葉を失った。
舅に呼び止められるまで、自分は何をしていた? 確か眼の前を蒼い蝶が飛んできて、追いかけているうちに井戸の中を覗き込んだ。