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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第24章 交錯する想い

「何度も申し上げたはずですが、その呼び方は止めて頂きたい。―私は、あなたと婚礼を挙げたわけではないのですから」
 口調だけは丁寧に冷えたまなざしを向けても、彩景はいささかも怯んだ風もなく婉然とした笑みを湛えている。
 可愛げのない腹立たしい女―だと思った。
「そのようなことをおっしゃって良いのかしら」
 思わせぶりな科白を投げた彩景をちらりと一瞥し、光王は軽く黙礼して行き過ぎようとした。
「失礼、急いでいるもので」
 と、その背中に向かって、彩景の金属質な声が追いかけてくる。
「あの娘を追いかけて、どうなさるというの?」
 光王の背中が強ばったのを、彩景は勝ち誇ったような表情で見ている。

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