月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第25章 岐路(みち)
香花は産婆に礼を述べ、早々に退散した。
―おお、そうだ。肝心なものを忘れておったわい。
呟くと、老婆はしわがれ声で香花を呼び止めた。
―ちょいとお待ち。
一体、何を言われるのかと、ビクリとして立ち止まった彼女の傍まで小腰を屈めてせかせかとした脚取りで歩いてきた産婆は、香花の手に小さな袋を握らせた。
―わしが処方した薬じゃ。これを呑めば、悪阻の方は直に治まろう。普通は五月にもなれば悪阻は自然に治まってくるものじゃが、お前さんの子は、いまだに自己主張しておる。少し変わり者かもしれぬぞ。
そう言って、黄色いヤニ歯を見せて笑った。
香花が幾ら金を払おうとしても、老婆は最後まで受け取らなかった。彼女が堕胎を施す女たちの大方から金を取らないというのは真実なのだろう。
―おお、そうだ。肝心なものを忘れておったわい。
呟くと、老婆はしわがれ声で香花を呼び止めた。
―ちょいとお待ち。
一体、何を言われるのかと、ビクリとして立ち止まった彼女の傍まで小腰を屈めてせかせかとした脚取りで歩いてきた産婆は、香花の手に小さな袋を握らせた。
―わしが処方した薬じゃ。これを呑めば、悪阻の方は直に治まろう。普通は五月にもなれば悪阻は自然に治まってくるものじゃが、お前さんの子は、いまだに自己主張しておる。少し変わり者かもしれぬぞ。
そう言って、黄色いヤニ歯を見せて笑った。
香花が幾ら金を払おうとしても、老婆は最後まで受け取らなかった。彼女が堕胎を施す女たちの大方から金を取らないというのは真実なのだろう。