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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 さもなければ、あんな朽ち果てて人も住めないような、家とも呼べない家に住んで、襤褸を着ているはずがない。
 それから、どこをどう歩いたのかは判らない。気が付けば、いつか来たはずの場所に佇んでいた。
―もう、あなた(光王)の傍にはいられない。
 そう思ったのは、光王が自分のために義母を殴ると息巻いて、部屋を出てゆこうとしたときだ。
―惚れた女があんな女どもにいびられてるのを毎日黙って見てるなんて、俺にはもうできねえ。
 あの科白を聞いた時、正直、嬉しかった。
 自分のために、そこまで憤ってくれる男の心が何より嬉しいと思った。
 しかし、それに甘えられはしない。たとえ義理とはいえ、立場上は母と呼ぶ人を殴るだなんて、人間として許されない所業だ。が、あのまま止めなければ、光王は本当に部屋を飛び出して妙鈴のところに行きかねなかった。

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