月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第25章 岐路(みち)
お転婆騒馬。光王によくからかわれたように、香花は両班の娘らしくないお転婆だ。元々、持ってきた荷物らしい荷物は殆どなく、当座の着替えだけを風呂敷に纏めたところで、小脇に余裕で抱えられるほどのものだった。その荷物を抱え、暗闇にまぎれて庭を横切り、塀を乗り越えることができたのは、やはり香花が〝騒馬〟だったからだろう。
庭を突っ切るときだけは、光王に見つからぬかと心臓が爆発しそうだった。何しろ、彼は〝天下の大義賊光王〟なのだ。少しの物音、気配でも聞き逃さないだろうと警戒していたにも拘わらず、意外にあっさりと通過できた。まさか、盗賊稼業を止めて久しいから、勘が鈍ったということもないだろうが、大方は香花が塀を乗り越えて出てゆくなぞとは考えてもいなかった―というのが正確なところかもしれない。
光王の部屋の前を通るときには、流石に胸が疼いた。
庭を突っ切るときだけは、光王に見つからぬかと心臓が爆発しそうだった。何しろ、彼は〝天下の大義賊光王〟なのだ。少しの物音、気配でも聞き逃さないだろうと警戒していたにも拘わらず、意外にあっさりと通過できた。まさか、盗賊稼業を止めて久しいから、勘が鈍ったということもないだろうが、大方は香花が塀を乗り越えて出てゆくなぞとは考えてもいなかった―というのが正確なところかもしれない。
光王の部屋の前を通るときには、流石に胸が疼いた。