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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 自分が別離も告げずに去ったと知れば、光王はどれほど怒り、嘆くだろう。香花が彼を嫌いになったのだと、心変わりしたのだと思うに違いない。香花にとっては、それがいちばん辛いことだ。
 だが、それで良い。未練は残さない方が良いのだ。光王のために身を退くのであれば、少しの未練も痕跡も残さず、香花は潔く彼の前からいなくなった方が良いのだ。
 本当なら、いっそのこと、香花という存在ごと、この世から消す―つまり、生命を絶てば、光王にとっては諦めがつき易いのは判っていた。
 でも、いかにしても、それはできなかった。矛盾しているようだけれど、腹の子をこの世から抹殺しようとしながら、自分が生命を絶てば、この子まで死んでしまうと思えば、つい躊躇ってしまうのだ。

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