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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 それとも、これは単に香花が自分の生命惜しさゆえに、自害しないための言い訳なのだろうか。
―お前さんの子は、いまだに自己主張しておる。少し変わり者かもしれぬぞ。
 あの産婆の科白にも、何かしら意味が含まれているような気がしてならない。本当なら、とっくに悪阻が治まっていて良いこの時期に、香花はまだ頑固な悪阻に悩まされている。それは、つまり腹の赤児が自分の存在を母である香花に気付いて欲しいと訴えているのではないか―とも思えるのだ。
 どうか、自分を殺さないでとしきりに訴えかけているのではないか。
 だとすれば、何と罪深いことだろう。まだ生まれる前に親の身勝手で摘み取ろうとしている小さな生命が〝殺さないで、生きたい〟と必死に叫んでいるのだとしたら。敢えてそれを摘み取ろうとするのは、親として許されない罪だ。

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