月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第3章 陰謀
「それで、近頃、光王が都に現れなくなったのね」
「まっ、そういうところだろう」
光王は香花を見て、晴れやかに笑った。―思わず見惚れるほどの眩しい笑みだった。
「何だかな、初めてお前を見たときから、放っとけなくてよ。危なかしくって、眼を離したら、どこまでも弾んで飛んでいっちまう毬みてえな女だなと思ってさ。お前、俺が昔、惚れた女に似てるんだ。だから、かな。お前から眼が離せなくなっちまったのは」
〝じゃあな〟と、光王は自分から押しかけてきたにも拘わらず、喋るだけ喋ると、実に潔いほどにあっさりと背を向けた。
「ねえ、どうして、明善さまのお屋敷に忍び込んだの? あなたはもう盗賊稼業からは足を洗うつもりだったんでしょう」
去ってゆく大きな背中に問いかけると、光王の歩みがふっと止まった。
「あの男には気をつけろ。見かけに騙されるな。後でとんでもない目に遭うぞ」
振り向きもせず、光王は淡々と言った。
「崔明善の名は早くから〝光の王〟の中で標的候補として挙がっていた。身の程知らずな陰謀に手を染めている危ない奴だと認識されてたぜ。お前だって判ってるだろ? 今、国王を殺して、この国はどうなる? それでなくても、この国の民は長い間、闇の王に泣かされてきたんだ。今更、また愚かな王を立てて、それでまた逆戻りだなんて、ゾッとしねえぜ」
「明善さまには事情があるの。だから―」
「俺は知らないね」
光王は、たったひと言ですべてを切り棄てた。
「また、知ろうとも思わない。香花、国を救うのは結局のところ、何だと思う?」
「まっ、そういうところだろう」
光王は香花を見て、晴れやかに笑った。―思わず見惚れるほどの眩しい笑みだった。
「何だかな、初めてお前を見たときから、放っとけなくてよ。危なかしくって、眼を離したら、どこまでも弾んで飛んでいっちまう毬みてえな女だなと思ってさ。お前、俺が昔、惚れた女に似てるんだ。だから、かな。お前から眼が離せなくなっちまったのは」
〝じゃあな〟と、光王は自分から押しかけてきたにも拘わらず、喋るだけ喋ると、実に潔いほどにあっさりと背を向けた。
「ねえ、どうして、明善さまのお屋敷に忍び込んだの? あなたはもう盗賊稼業からは足を洗うつもりだったんでしょう」
去ってゆく大きな背中に問いかけると、光王の歩みがふっと止まった。
「あの男には気をつけろ。見かけに騙されるな。後でとんでもない目に遭うぞ」
振り向きもせず、光王は淡々と言った。
「崔明善の名は早くから〝光の王〟の中で標的候補として挙がっていた。身の程知らずな陰謀に手を染めている危ない奴だと認識されてたぜ。お前だって判ってるだろ? 今、国王を殺して、この国はどうなる? それでなくても、この国の民は長い間、闇の王に泣かされてきたんだ。今更、また愚かな王を立てて、それでまた逆戻りだなんて、ゾッとしねえぜ」
「明善さまには事情があるの。だから―」
「俺は知らないね」
光王は、たったひと言ですべてを切り棄てた。
「また、知ろうとも思わない。香花、国を救うのは結局のところ、何だと思う?」