月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第3章 陰謀
突如として振られた話題に、香花は戸惑うばかりだ。まさか盗賊から国を救う云々の話が出るとは考えてもいなかったというのが正直なところだった。
「一人一人の想い、国を想う真摯な心が集まってこそ、国は初めて成り立つんだ。その想いと私情は全く別物だぜ。左議政はとかくの噂のある腹黒い奴だからな、崔明善が左議政に恨みを持ってるってことも或いはあるかもしれん。だが、個人の感情を優先させるあまり、誤った判断をすれば、それはもう単なる私情になっちまう。はっきり言えば、あの男は根本から考え違いをしてる。自分一人の恨みを晴らすために、感情に溺れて、この国をまたしても闇に陥れ、滅ぼしても良いとでも言うのか!?」
光王の言葉は容赦がなく、そして正しかった。
―先生、私はこの国を支えるのは結局は国王でも両班でもなく、そういった志ある人々の知恵だと思っている。
いつだったか、崔家に家庭教師として来たばかりの頃、明善から初めて地球儀を見せて貰った。あの時、彼は確かにそう言ったのだ。
明善は本来、拓けた考えの持ち主である。民が国の基本であるという理想は、光王の思想と同じだ。その明善が復讐のためには、罪なき民を犠牲にするのも辞さない。その悲壮な覚悟に至るまでには、どれほどの葛藤を経たであろうか。
だから、香花は、光王のように明善の報復を〝単なる私情〟と即座に決めつけられない。どうしても明善の立場寄りに考えてしまうのは、やはり明善への恋心ゆえだろうか。
「一人一人の想い、国を想う真摯な心が集まってこそ、国は初めて成り立つんだ。その想いと私情は全く別物だぜ。左議政はとかくの噂のある腹黒い奴だからな、崔明善が左議政に恨みを持ってるってことも或いはあるかもしれん。だが、個人の感情を優先させるあまり、誤った判断をすれば、それはもう単なる私情になっちまう。はっきり言えば、あの男は根本から考え違いをしてる。自分一人の恨みを晴らすために、感情に溺れて、この国をまたしても闇に陥れ、滅ぼしても良いとでも言うのか!?」
光王の言葉は容赦がなく、そして正しかった。
―先生、私はこの国を支えるのは結局は国王でも両班でもなく、そういった志ある人々の知恵だと思っている。
いつだったか、崔家に家庭教師として来たばかりの頃、明善から初めて地球儀を見せて貰った。あの時、彼は確かにそう言ったのだ。
明善は本来、拓けた考えの持ち主である。民が国の基本であるという理想は、光王の思想と同じだ。その明善が復讐のためには、罪なき民を犠牲にするのも辞さない。その悲壮な覚悟に至るまでには、どれほどの葛藤を経たであろうか。
だから、香花は、光王のように明善の報復を〝単なる私情〟と即座に決めつけられない。どうしても明善の立場寄りに考えてしまうのは、やはり明善への恋心ゆえだろうか。