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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 少し金を上乗せすれば、座敷と呼ばれる個室に上がることができる。座敷といっても、ちゃんとした独立した建物で、一戸建ての小さな家である。一部屋しかない場合が多く、置いてあるのは小さな棚くらいのものだ。
 その時、いかにも冬らしい冷たい風が二人の間を吹き抜けていった。思わずクシュンと小さなくしゃみをした香花をちらりと見、女将は笑った。
「さ、風邪を引いちまわない中に、さっさとお上がり」
 〝酒〟と書かれた旗が冬の風にはたはたと鳴っている。どうせ、他にゆくところも当てもない身である。香花は女将の申し出に素直に従った。

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