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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 この女は、恐らく光王については妻である香花よりもたくさん知っているに違いない。
 この女将は、香花の知らない光王を知っている。そう思っただけで、嫉妬がちりちりと胸を焦がすようだ。
 恋は人を変える。光王と知り合うまで、香花は他人を妬んだことも羨んだこともなかった。だが、今はどうだろう。かつて光王の愛人であったこの女将に嫉妬している。
 我ながら嫌な女になってしまったと、それが少しだけ哀しい。
 香花の心中を知ってか知らずか、女将は破顔する。
「あんたもつくづく変わってるというか、面白い娘だね。恋仇の許に飛び込んでくるなんて。流石に、光王の選んだ女だけあって、肝の据わった女だよ」
「恋仇?」

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