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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 今日もまた、件(くだん)の二人組が中央の卓に座っていた。どうやら、この二人の若者は香花に夢中なようだ。ここ数日、姿の見えなかった香花を認めると、互いに意味深な目配せをした。
 蒸し鶏と酒を運んできた香花の顔や身体をちらちらと物欲しげに見ている。もっとも、香花がそんな男たちの嫌らしげな視線に気付くはずもない。
 料理を運び終えた香花が一礼して戻ろうとするのに、一人が〝ねえ〟とその腕を掴んだ。
「―!」
 香花の華奢な身体が恐怖に強ばった。
「君、名前は何て言うの?」
「可愛いよね。歳は幾つ? 今日、店が終わったら、俺たちと遊ばないか。美味い飯を食わせる店を知ってるんだ」
「きれいな櫛やノリゲを売ってる店もあるぜ」
 二人が代わる代わる香花の気を引こうと必死の攻勢である。

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