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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 酒場から続いた人通りのない道が終わり、賑やかな往来に入った。
 ぴったりと寄り添い合って歩く光王と香花は、誰がどう見ても、自分たちだけの世界に入り込んでいる。
「全く、近頃の若い者ときたら、人眼もはばからずに」
 五十ほどの人足風の男が苦虫を噛みつぶしたような表情ですれ違ってゆく。かと思えば、〝ああ、若い人は羨ましいもんだねぇ〟と七十は近いと思われる老婆がにこにこと自分たちを見ている。
「あのね。それから、もう一つ話さなければならないことがあるの」
 香花が切り出すと、前を向いたまま光王が言った。
「懐妊のことだろ」
 当然のように口にした光王に、香花は眼を見開いた。
「何だ、知ってたの?」

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