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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第25章 岐路(みち)

 もしかしたら、赤ン坊が生まれたら、子どもが一挙に二人になるかもしれない。大きな子どもと小さな子どもと。
 香花はそう考え、くすりと笑みを洩らした。
「おい、何だよ、何を一人で笑ってるんだ?」
「何でもな・い・の。秘密、秘密」
「まさか、また一人で逃げ出そうなんて、逃亡計画を練ってるんじゃないだろうな」
 亭主関白の中にほんの少しだけ、気弱さを覗かせて。
 香花は光王の腕にぶら下がるようにして歩きながら、はしゃいだ声を上げる。
「そんなこと、あるはずがないでしょ」
 二月もそろそ中頃に差しかかり、心なしか、太陽の光もわずかに力強さを増したようだ。
 かすかに梅の香が混じった風に髪を嬲られながら、香花は光王と並んで屋敷までの帰途を辿った。

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