月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第26章 都の春
なお、真悦はこれを機に、沈彩景を実家に帰すことにした。思慮深い真悦にしては珍しく大胆な判断ではあったが―、一つの家に二人の〝若奥さま〟は要らない。
真悦は香花に対しての約束を守ったのだ。
あの日も井戸端で〝悪いようにはせぬ〟と言って励ましてくれた義父の優しさを、香花は生涯忘れまいと誓った。自分にはもう両親はいないけれど、新しい両親に良人光王と共に孝養を尽くしたいと思ったのだ。
妙鈴の頑なな心を解きほぐすには、気の遠くなるような根気と時間を要するだろう。しかし、心を込めて接していれば―真心がいつかは妙鈴の凍りついた心を春の雪のようにやわらかく溶かしてくれるかもしれない。
今は素直にそう思えるようになっていた。
成家の門前で輿から降り立ったその小柄な老人は、霜の降りた、たっぷりとした顎髭、頭髪ともに仙人を彷彿とさせる風貌をしている。
真悦は香花に対しての約束を守ったのだ。
あの日も井戸端で〝悪いようにはせぬ〟と言って励ましてくれた義父の優しさを、香花は生涯忘れまいと誓った。自分にはもう両親はいないけれど、新しい両親に良人光王と共に孝養を尽くしたいと思ったのだ。
妙鈴の頑なな心を解きほぐすには、気の遠くなるような根気と時間を要するだろう。しかし、心を込めて接していれば―真心がいつかは妙鈴の凍りついた心を春の雪のようにやわらかく溶かしてくれるかもしれない。
今は素直にそう思えるようになっていた。
成家の門前で輿から降り立ったその小柄な老人は、霜の降りた、たっぷりとした顎髭、頭髪ともに仙人を彷彿とさせる風貌をしている。