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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第26章 都の春

 真悦も賛意を示すかのように頷いた。
「亡くなったときはまだ、三十九歳の若さだったように記憶していますが」
 峻烈は重々しく頷いた。その細い眼(まなこ)から一瞬、鋭い光が消え、代わりに哀しみがよぎった。峻烈が早世した盟友を心底から惜しんでいるのは確かなのだろう。
「金氏は勢いはたいしてないとはいえ、元を辿れば建国の忠臣として数えられる人物を出した名家として有名です。勇承が早死にした後は、跡を継ぐべき者がおらず、最早、家門は絶えたと聞いておりますが」
 それが金氏について真悦の知り得るすべてだ。名門には違いないのだが、何しろ、現在は逼塞してしまっていて、忘れ去られたような家門なのだ。
 峻烈は小さく頷いて見せた。

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