月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第4章 夜の蝶
庭の池の汀に二人の子どもたちと香花が陣取り、それぞれ笹舟を浮かべている。
どうやら、笹舟の作り方を伝授したのは香花らしい。自分の舟がいちばん速く走ると自慢する林明に向かって、香花が微笑んでいる。
「でも、作り方を教えたのは私ですからね。きっと、教え方が素晴らしかったのよ」
「先生、あっち。今度は私のが林明を追い越したわ!」
桃華が白い頬をうっすらと上気させている。
「畜生、追い越されちまった」
林明が地団駄踏んで悔しがるのに、香花が軽く睨む。
「坊ちゃん、崔家の跡取りが〝畜生〟とか〝―ちまった〟なんて汚い言葉を使ってはいけません」
「先生、このこと、父上には内緒だよ」
林明が手のひらを合わせると、香花は笑って頷く。
その当の父親がすべてを見ているとは知りもせず、幼い息子は屈託ない笑顔で香花を見上げていた。二人の子どもたちのこんなに愉しげな表情を見るのは彼自身、初めてのことだ。
二人ともに実に健康そうで、何より、香花が来てからというもの、明るく子どもらしくなった。以前はどこか暗い翳りのようなものが纏いついていた。それは早くに母親を亡くしたせいだと思い込んでいたのだが、もしかして、父親である自分の配慮が足りなかったのだろうか。
笹舟競争は結局、林明の一番勝ちで、二位が桃華、三位が香花となった。多分、優しい香花のことゆえ、わざと子どもたちに負けてやったのだろうとは容易に推測できる。
どうやら、笹舟の作り方を伝授したのは香花らしい。自分の舟がいちばん速く走ると自慢する林明に向かって、香花が微笑んでいる。
「でも、作り方を教えたのは私ですからね。きっと、教え方が素晴らしかったのよ」
「先生、あっち。今度は私のが林明を追い越したわ!」
桃華が白い頬をうっすらと上気させている。
「畜生、追い越されちまった」
林明が地団駄踏んで悔しがるのに、香花が軽く睨む。
「坊ちゃん、崔家の跡取りが〝畜生〟とか〝―ちまった〟なんて汚い言葉を使ってはいけません」
「先生、このこと、父上には内緒だよ」
林明が手のひらを合わせると、香花は笑って頷く。
その当の父親がすべてを見ているとは知りもせず、幼い息子は屈託ない笑顔で香花を見上げていた。二人の子どもたちのこんなに愉しげな表情を見るのは彼自身、初めてのことだ。
二人ともに実に健康そうで、何より、香花が来てからというもの、明るく子どもらしくなった。以前はどこか暗い翳りのようなものが纏いついていた。それは早くに母親を亡くしたせいだと思い込んでいたのだが、もしかして、父親である自分の配慮が足りなかったのだろうか。
笹舟競争は結局、林明の一番勝ちで、二位が桃華、三位が香花となった。多分、優しい香花のことゆえ、わざと子どもたちに負けてやったのだろうとは容易に推測できる。