テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第26章 都の春

「崔氏といえば、二年半前の謀反に連座した崔明善に縁(ゆかり)の家ですね。しかし、どうして、私にそのような話を?」
 真悦の面に明らかな警戒が浮かぶ。国王への謀反は不敬罪、大逆罪に値する。そのような大それた謀に名を連ねた人物の名を何故、今、ここで出さねばならないのか、理解に苦しむところだ。
 この俗世の欲などには一切縁も関心もなさそうな老人に、何の目的があるのかと疑いたくもなる。
 真悦の剣呑な雰囲気に、峻烈はからからと笑った。
「そんな怖い顔をなさるな。崔明善もまた、早死にさせるのは勿体ない男でした。末は左議(チヤイジヨン)政、右議(ウイジヨ)政(ン)どころか領(ヨン)議(イ)政(ジヨン)にでもなれるほどの男だったと儂は思っていますよ。あれほどの男はもう二度と現れないでしょう。心から国や民を思うことのできる人物だった」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ