
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第26章 都の春
その日、明善は生憎と参内していて留守だったが、夜に帰邸した後、執事からひそかに報告を受けた。その女人こそが金香丹に相違ないと今なら、すぐに理解できる。
その時、身分を明かさなかったのは、やはり無用の混乱と誤解を招きたくなかったからだろう。が、どうせなら、もう少し早くに真実を明かして欲しかったと思う気持ちもある。もっと早くに香花が名門金氏の正統な後継者だと知れれば、妙鈴が香花をあそこまで追いつめ、香花に我慢ばかりを強いずに済んだものを―。
だが、それはそれとして、明善は、香花の叔母だという女性の配慮に好感を持った。朝鮮時代も後期に入ったこの時代、自らの身分を上げるため、金を積んで不当に名家の系図を手に入れ、両班を名乗る輩―〝偽両班〟が多かった。そんな風潮の中で、殊更身分をひけらかそうとしない控えめさは、真悦には随分と奥ゆかしいものに思えた。
その時、身分を明かさなかったのは、やはり無用の混乱と誤解を招きたくなかったからだろう。が、どうせなら、もう少し早くに真実を明かして欲しかったと思う気持ちもある。もっと早くに香花が名門金氏の正統な後継者だと知れれば、妙鈴が香花をあそこまで追いつめ、香花に我慢ばかりを強いずに済んだものを―。
だが、それはそれとして、明善は、香花の叔母だという女性の配慮に好感を持った。朝鮮時代も後期に入ったこの時代、自らの身分を上げるため、金を積んで不当に名家の系図を手に入れ、両班を名乗る輩―〝偽両班〟が多かった。そんな風潮の中で、殊更身分をひけらかそうとしない控えめさは、真悦には随分と奥ゆかしいものに思えた。
